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富山地方裁判所高岡支部 昭和53年(ワ)149号 判決

原告

寺禎

ほか一名

被告

飯田章治

主文

一  原告両名の、被告飯田章に対する請求を棄却する。

二  被告飯田章治は、原告寺禎に対し金五七二万八〇〇二円及び内金五二二万八〇〇二円に対する昭和五一年一一月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告三協アルミ健康保険組合に対し金一〇九万七四四〇円及びこれに対する昭和五三年一二月二四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

三  原告寺禎の、被告飯田章治に対するその余の請求は棄却する。

四  訴訟費用は、原告両名に生じた費用の二分の一と被告飯田章治に生じた費用はこれを二分し、その一ずつを原告両名と同被告の各負担とし、原告両名に生じたその余の費用と被告飯田章に生じた費用を原告両名の負担とする。

五  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  原告ら

被告両名は各自、原告寺に対し、金一〇九四万八七九八円及びこれに対する昭和五一年一一月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告三協アルミ健康保険組合に対し、金一〇九万七四四〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

仮執行宣言。

二  被告ら各自

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者らの主張

(請求原因)

一  原告寺禎の損害

(一) 事故の発生

1 発生日時 昭和五一年一一月一四日午前四時二〇分頃

2 発生地 富山県砺波市太郎丸四七〇番地県道路肩

3 加害車 普通乗用車(富五五ま一七五一号、以下被告車という。)

運転者 被告飯田章治(以下単に被告章治という。)

4 被害者 原告寺禎(以下単に原告寺という。)

5 態様 被告章治は被告車を運転し、県道上を庄川方面に走行中、前照灯をつけたまま右路上に駐車している原告の自動車を認めたが、自動車運転者としては、他車の前照灯に眩惑され視力を失つたときは直ちに停車し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、原告の車の前照灯に眩惑されて視力を失つたのに運転を継続した過失によつて県道の路肩に転落し、折柄右県道路肩(かなりの傾斜あり)をのぼつている原告に衝突したもの。

6 傷害の程度及び治療経過 原告寺は右事故により、右大腿骨骨折、右肘関節脱臼、顔面切創、右遅発性尺骨神経麻痺の傷害をうけ、昭和五一年一一月一四日より昭和五二年七月一八日まで砺波厚生病院に入院し、同年同月一九日より昭和五三年六月六日まで同病院に通院して治療をうけ、更に同月七日から同月一六日まで同病院に入院し、昭和五三年六月一六日その回復の見通しなしということで症状が固定した。

(二) 責任原因

被告飯田章(以下単に被告章という。)は右事故自動車を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条により、一方被告章治は前記過失により事故を惹起した不法行為者として、民法七〇九条により、それぞれ原告の損害を賠償する義務がある。

(三) 損害

1 入院及び通院治療費 金二四三万九一七五円

2 付添費 金八四万一四九六円

(1) 原告は入院期間中のうち、昭和五一年一一月一四日より昭和五二年四月三〇日まで(一六八日間)、付添看護人(家政婦)を雇い入れ、同人に金七六万四六九六円を支払つた。

(2) 原告の妻は、事故当日の昭和五一年一一月一四日より昭和五二年四月三〇日までの間のうち二二日間、並びに原告が再度入院した昭和五三年六月七日より同月一六日まで(一〇日間)の期間、付添にあたつたので、一日金二四〇〇円の割合で合計金七万六八〇〇円を出捐した。

3 入院雑費 金一二万八五〇〇円

入院日数二五七日に一日金五〇〇円を乗じた金額

4 通院交通費 金四八〇〇円

原告は、昭和五二年七月一八日より昭和五三年六月一六日まで、通算一六日間バス(片道金一六〇円)で通院した(入院、退院も含む)。ただし、入院、退院は片道のみであるから、実際の往復分は一五回となる。その合計は四八〇〇円である。

5 休業補償費 金二五七万四三九二円

(1) 原告寺は、本件事故当時訴外三協アルミニウム工業株式会社福光工場に勤務し、本件事故前三か月間(昭和五一年八月より一〇月)の右会社よりの労働収入は金四九万六六三二円であり、一日当りの平均収入は金五五一八円である。

原告寺は本件事故のため、昭和五一年一一月一五日から昭和五二年九月二〇日まで(三一〇日間)、及び昭和五三年六月七日から同月二〇日まで(一四日間)合計三二四日間、右会社を欠勤のやむなきに至り、それによつて金一七八万七八三二円の収入を得ることができなくなつた。

(2) 原告寺は右期間欠勤したため、更に左記の収入を得ることができなかつた。

(イ) 昭和五一年度冬期一時金の損害 金一万〇六九七円

昭和五一年度冬期一時金は、本給(金九万八五〇〇円)の一・八一か月分支給されることになつていたが、原告寺は昭和五一年一一月一五日より同月二〇日まで(六日間)欠勤したため、百分の六が欠勤のため控除になり、結局一万〇六九七円(98,500×1.81×0.06)が控除損害額となつた(右会社の右一時金の欠勤等の査定の対象になつたのは、昭和五一年一一月二〇日までの出勤であつた)。

(ロ) 昇給停止による損害 金五万四〇〇〇円

前記会社は毎年三月末に勤務査定を行い、それに基いて四月より昇給することになつており、原告寺は昭和五二年四月より基本給金七五〇〇円、家族手当金一〇〇〇円、住宅手当金五〇〇円昇給するはずであつたが、前記欠勤の為、昭和五二年四月より同年九月まで右昇給をうけることができず、結局金五万四〇〇〇円((7,500+1,000+500)×6)の損害を被つた。

(ハ) 昭和五二年夏期一時金の損害 金二七万二〇二〇円

原告寺は前記欠勤のため、昭和五二年度夏期手当の支給をうけることができず、欠勤なかりせば原告のうけるべき右夏期手当は金二七万二〇二〇円である。

(ニ) 昭和五二年冬期一時金の損害 金一三万一九九三円

原告寺は、昭和五二年度冬期一時金として基本給(金一〇万六〇〇〇円)の二・一八四六か月分の支給をうけるはずであつたが、前記欠勤のため五七パーセント控除の損害をうけた。

{98,500+7,500(基本給の昇給額)}×2.1846×0.57=131,993円

(ホ) 昭和五三年冬期一時金の損害 金三万五〇五〇円

原告寺は、昭和五三年度冬期一時金として基本給の二・二か月分の支給をうけるはずであつたが、前記欠勤(昭和五三年六月七日より同月二〇日)のため、一四パーセントの控除損害をうけた。

{113,800(基本給)×22}×0.14=35,050円

(3) 農業所得減収 金二八万二八〇〇円

原告寺は、前記会社へ勤務する傍ら農業を営み、昭和五一年度の農業所得は金八七万円であつた。ところが、本件事故のため同原告は昭和五二年度の農業を営むことが不可能になり、右農業経営を委託耕作してもらい、その結果昭和五二年度の農業所得は金五八万七二〇〇円となつた。したがつて、その差額金二八万二八〇〇円が本件事故による農業所得の減収額である。

6 慰藉料 金一五〇万円

原告寺は、本件事故により長期間の入院及び通院治療を余儀なくされ、その間の精神的、肉体的苦痛を金銭に換算すると、金一五〇万円が相当である。

7 後遺症の慰藉料及び逸失利益 金八二四万七六二一円

原告寺は本件事故の為、前記のとおり入院、通院治療をうけたが完治せず、昭和五三年六月一六日症状が固定し、右肘関節可動域制限、右第四、五指知覚鈍麻、右大腿部手術線状瘢痕約二〇センチメートル、右前腕部手術線状瘢痕約一五センチメートルの後遺障害(一二級)が残つた。

(1) 右後遺症による原告の被つた精神的及び肉体的苦痛は金銭に換算して金一〇四万円が相当である。

(2) 原告寺の被つた後遺症は、後遺障害別等級の一二級に該当し、一四パーセントの労働能力を喪失し、それによる逸失利益は金七二〇万七六二一円となる。

232,900(36歳の男子の月額平均給与)×0.14×12×18,421(36歳の成人に対応するホフマン係数)=7,207,621円

8 損害の填補

損害額は以上合計金一五七三万五九八四円であるところ、原告寺は自賠責保険から金二五七万円、被告から本件損害の一部弁済として金二一一万九七四六円を受領した。また、治療費の内金一〇九万七四四〇円を原告組合より支払いをうけた。以上入金合計額は五七八万七一八六円である。

9 よつて、原告寺の本件事故による損害の未払額は金九九四万八七九八円である。

10 弁護士報酬

原告寺は被告から任意に弁済をうけられないで、やむなく弁護士である原告訴訟代理人らに本件損害賠償請求訴訟の追行を委任し、これが報酬として金一〇〇万円を支払う債務を負担した。

11 従つて、以上の請求総額は金一〇九四万八七九八円となる。

二  原告三協アルミ健康保険組合の損害

(一) 原告三協アルミ健康保険組合(以下原告組合という。)は、前記三協アルミニウム工業株式会社の従業員で構成される健康保険組合であるが、原告寺が、前記事故により砺波厚生病院に入院及び通院したうち、昭和五二年三月一日より昭和五三年六月一六日までの入院及び通院治療費金一〇九万七四四〇円を右病院に保険給付として支払つた。

(二) しかしながら、原告組合が保険給付として支払つた治療費は、被告らの原告寺に対するその責に帰すべき本件交通事故によつて生じたものであるので、原告組合は健康保険法六七条の規定に基いて、原告寺が被告らに対して有する昭和五二年三月一日より昭和五三年六月一六日までの入院、通院治療費金一〇九万七四四〇円の損害賠償請求権を取得した。

三  結論

よつて、原告寺は被告両名に対し、本件事故による損害賠償請求として金一〇九四万八七九八円及びこれに対する本件事故の発生の日である昭和五一年一一月一四日より支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告組合は被告両名に対し、金一〇九万七四四〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五三年一二月二四日より支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める為本訴請求に及んだ次第である。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因事実一の(一)のうち、

(一) 1ないし4は認める。

(二) 5のうち、被告章治の過失の点は争うが、その余は認める。

(三) 6の不知。

二  請求原因事実一の(二)のうち、

被告飯田章が右事故自動車を所有し自己のため運行の用に供していたことは否認し、その余は争う。

三  請求原因事実一の(三)のうち、

(一) 1ないし7及び10は不知。但し、2(1)は認める、2(2)のうち原告の妻が原告の最初の入院の際二二日間付添つた事実は認める。

(二) 8のうち、自賠責保険及び被告章治からの支払いの事実は認め、原告組合からの支払いの事実は不知。

(三) 9及び11は争う。

四  請求原因事実二はいずれも不知。

五  請求原因事実三は争う。

(抗弁)

原告寺は普通自動車(以下原告車という。)を運転して県道を庄川方面から砺波市街地方面に向けて走行してきたところ、幅員約六・五メートルであり、原告車運行方向からみて左にカーブしている本件事故発生地において、県道右端に、かつ、ヘツドライトを上向きに点灯したまま駐車して原告車を離れた(道路交通法四七条二項(駐車方法)、同法五二条、同法施行令一八条二項、二〇条(灯火の操作)各違反)。被告章治は右県道を砺波市街地方面から庄川方面に向けて走行してきたところ、事故発生地であるカーブ地点にさしかかると、突然、自車の進行車線上に原告車のヘツドライトを現認したため、これに眩惑され、かつ、原告車の左側(被告車からみて。以下同じ。)が自車の進行車線であると誤認せしめられて、とつさに左側にハンドルを切つた。被告章治は直ちに右誤認に気づいて急制動の措置を講じたが間に合わず、左側路肩に転落してしまい、たまたま原告車に戻ろうと同路肩をのぼつていた原告寺に衝突したものである。

よつて、本件事故の発生については原告に過失がある。

(抗弁に対する認否)

原告寺に、抗弁事実に指摘するような道路交通法等の違反があつたことは認めるが、その余は否認する。右違反と本件事故との間に因果関係は認められない。

第三証拠〔略〕

理由

第一被告飯田章に対する請求について

請求原因一(一)の1ないし4の各事実は当事者間に争いがない。そこで、被告飯田章につき自賠法三条の運行供用者責任があるかどうかにつき判断する。

成立に争いのない甲第一号証によれば、本件事故車両の登録所有名義人は被告章となつているが、被告飯田章治本人尋問の結果によると、本件車両は被告章治が訴外斉藤某から昭和五〇年一月に自らの資金で買い受け、その後車検をうける際車庫証明が必要になつたところ、被告章治の居住していた大阪府において同証明がとれなかつたので、被告章に頼んで同被告の名義にしたうえ、同被告の居住地富山県で車庫証明をとつたが、同車両は車庫証明をとる前後をとわず被告章治が大阪府内において通勤等に専ら使用し、車両の維持費等も同被告が負担し、また被告章に対し名義借りの謝礼を全く払つたことがないことが認められ、右認定を左右する証拠はない。以上の認定事実によれば、登録所有名義人が被告章ではあるけれども、同被告には右車両の運行につき、なんらの利益も支配もなかつたものであることが認められ、同被告が自賠法三条の運行供用者であるということはできない。

従つて、被告章が運行供用者であることを前提とする原告両名の同被告に対する本訴請求はその余の点を判断するまでもなく失当であり、棄却を免れない。

第二被告飯田章治に対する請求について

一  事故の発生

請求原因一(一)の1ないし4並びに同5のうち、被告章治の過失の点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第三三号証、乙第一号証ないし同第三号証によれば、本件事項は次のような状況のもとで発生したものであると認められる。すなわち、被告章治は事故発生地先の右にカーブする道路(幅員約五・六メートル)を山王町方面から中野方面にむかい時速約五〇キロメートルで被告車を運転進行中、前方約四六・八メートルの地点に山王町方面に前照灯を上向きに照射したまま駐車中の原告の車両を認めたが、先を急ぐあまり漫然時速約四〇キロメートル(この認定に反する被告章治本人尋問の結果は採用しない。)に減速したのみで進行し、かつ同車手前約二三・七メートルに至つて同車の前照灯に眩惑されて視力を失つたのに進行を継続し、本件事故を惹起した。以上の認定を左右する証拠はない。これによれば、被告章治には、原告車両の前照灯に眩惑されて前方がみえなくなつた時点において減速徐行するか、または運転を一旦停止して、前方が十分注視しうる状況のもとで運転すべき注意義務を怠つた過失により本件事故を発生させたものであると認められる。また、同6の事実は成立に争いのない甲第一九号証及び同第二〇号証によつて認められ、それを左右する証拠はない。

二  責任原因

被告章治には前記一において述べたとおりの過失があり、従つて、民法七〇九条により損害賠償義務がある。

三  損害

(一)  入院及び通院治療費 金二四三万九一七五円

成立に争いのない甲第二号証ないし第一八号証、同甲第二一号証ないし第二四号証により認める。昭和五二年二月分として三五万五〇五〇円を要したことは当事者間に争いがない。

(二)  付添費 金八四万一四九六円

請求原因一(三)2(1)の事実、並びに同(2)のうち原告寺の妻が同原告の最初の入院の際二二日間付添つたことは当事者間に争いがなく、また同原告の再度の入院の際同原告の妻が一〇日間付添つたことは原告寺禎本人尋問の結果により認める。右事実と経験則によれば、原告寺は右同原告妻の付添期間、一日金二四〇〇円の割合による合計七万六八〇〇円の損害を被つたことが認められる。

(三)  入院雑費 金一二万八五〇〇円

原告寺が二五七日間入院したことは前記甲第一九号証及び同二〇号証により認められ、右入院期間中一日金五〇〇円の割合による合計金一二万八五〇〇円の入院雑費を要したことは、経則上これを認めることができる。

(四)  通院交通費 金四八〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告寺は前記通院のため合計金四八〇〇円の通院交通費を要したことが認められる。

(五)  休業損害 金二五七万四三九二円

1 請求原因一(三)5(1)の事実は成立に争いのない甲第二六号証及び第二七号証により認める。

2 同一(三)5(2)(イ)ないし(ホ)の各事実は成立に争いのない甲第二八号証により認める。

3 同一(三)5(3)の事実は成立に争いのない甲第二九号証及び第三〇号証、並びに原告寺本人尋問の結果により認める。

(六)  慰藉料 金一五〇万円

本件事故の態様、原告寺の傷害の部位、程度、治療の経過、原告寺の年齢、親族関係、その他諸般の事情を考えあわせると、原告寺の慰藉料額は金一五〇万円とするのが相当であると認められる。

(七)  後遺症の慰藉料及び逸失利益 金八二四万七六二一円

成立に争いのない甲第二五号証によれば、請求原因一(三)7昌頭の事実を認めることができる。右後遺障害の内容程度に照らせば、それにもとづく原告寺の慰藉料額は金一〇四万円とするのが相当であると認められる。

前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告寺は前記後遺障害のため、昭和五三年六月一三日から少くとも三一年間、その労働能力を一四パーセント喪失するものと認められるから、原告寺の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると左記のとおり、金七二〇万七六二一円となる。

232900(賃金センサスによる36歳男子の月額平均給与。原告寺の本件事故前3か月間の平均給与及び農業所得により算出される月額平均収入はそれを上回るので、賃金センサスによつても不合理ではない。)×0.14×12×18.421(36歳の成人の場合の新ホフマン係数)=7,207,621(円未満切捨て)

四  過失相殺

前記第二、一認定の事実によれば、本件事故の発生については原告寺にも、前照灯を上向きに照射したまま道路右側に自動車を駐車させた点において過失が認められるところ、前記認定の被告章治の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告寺の損害の三割を減ずるのが相当と認められる。そうすると、原告寺の被告章治に対して請求しうべき損害額は金一一〇一万五一八八円(円未満切捨て)となる。

五  損害の填補

原告寺が自賠責保険から金二五七万円、被告章治から本件損害の一部弁済として金二一一万九七四六円を受領していることは当事者間に争いがなく、また原告寺が原告組合から本件事故による傷害の治療費の内金として金一〇九万七四四〇円の支払いをうけたことは成立に争いのない甲第三号証により認められる。右の合計額は五七八万七一八六円である。

よつて、原告寺の前記損害額から右填補分を差引くと、残損害額は金五二二万八〇〇二円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告寺が被告章治に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は五〇万円とするのが相当であると認められる。

七  以上によれば、被告章治は原告寺に対し、金五七二万八〇〇二円、及び内弁護士費用を除く金五二二万八〇〇二円に対する本件不法行為の日である昭和五一年一一月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

八  原告組合の請求

請求原因二(一)の事実は成立に争いのない甲第二号証ないし第一八号証、並びに証人中島俊夫の証言によつて認められ、また原告組合が原告寺に対して保険給付として支払つた治療費は、原告寺の、被告章治の責に帰すべき行為によつて生じた交通事故により要した治療費の一部であることは既に認定の諸事実から明らかである。従つて、原告組合は健康保険法六七条の規定に基いて、原告寺が被告章治に対して有する前記金一〇九万七四四〇円の損害賠償請求権を取得したものである。

なお、本訴状が被告章治に到達した翌日が昭和五三年一二月二四日であることは記録上明らかである。

そうすると、被告章治は原告組合に対して、昭和五三年一二月二四日より支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三結論

以上の次第で、原告両名の被告章に対する請求は棄却することとし、原告寺の被告章治に対する請求は、金五七二万八〇〇二円及び内金五二二万八〇〇二円に対する昭和五一年一一月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、原告組合の被告章治に対する請求は理由があるから全部認容することとし、訴訟費用負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 出口治男)

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